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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12122号 判決 1998年3月23日

原告

増田清子

紅野えり子

外三名

右原告ら訴訟代理人弁護士

四宮章夫

浦中裕孝

被告

増田雄彦

外二名

主文

一  原告らの本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

大阪家庭裁判所平成七年(家)第一〇七三号遺産分割申立事件に対する同裁判所の審判(以下「本件審判」という。)が無効であることを確認する。

第二  主張

一  原告ら(請求原因)

1  原告らおよび被告らは、別紙相続人目録記載のとおり、それぞれ増田裕治(以下「裕治」という。)の相続人である。

2  裕治は、昭和六二年一〇月二日に公正証書遺言(以下「昭和六二年作成公正証書遺言」という)を作成し、平成三年六月一一日作成の公正証書遺言(以下「本件公正証書遺言」という)により、昭和六二年作成公正証書遺言の内容を一部変更した。

3  平成四年六月頃、被告増田雄彦(以下「被告雄彦」という)が原告らに対し、本件公正証書遺言のとおりに裕治の遺産(以下「本件遺産」という)を分割すれば、物納ができず相続税が支払えないから、遺産分割協議をすべきだと説明したため、原告らはこれを信じた。そこで、本件公正証書遺言により指定された遺言執行者三井信託銀行株式会社に対し、相続人全員で遺言執行者の辞任の申出をし、同銀行は、大阪家庭裁判所の許可を受けて遺言執行者を辞任した。

4  その後、相続人らは遺産分割協議を行おうとしたが、被告増田勝彦(以下「被告勝彦」という)がこの協議に応じなかったところ、被告雄彦とその代理人弁護士平正博(以下「平弁護士」という)から原告らに対し、「物納を行うためには速やかに遺産分割調停及び審判を行う必要がある。審判内容は本件公正証書遺言のとおりになるから問題ない」との説明を受けた。そのため、原告らは平弁護士にこの手続を委任したが(以下、この委任を「本件委任」という)、平成七年一〇月二四日、本件遺産を共有分割することを内容とする本件審判がされた。

5  本件審判は、別紙記載の事実(以下「別紙事実」という)及び次の理由により無効である。

(1) 昭和六二年作成公正証書遺言及び本件公正証書遺言は、有効な遺言であり(被告ら主張のように破棄されたものではなく、遺言執行者が辞任したにすぎない)、これを考慮せずに行われた本件審判は、不適法かつ無効である。

(2) 原告らが平弁護士に対して本件委任をしたのは、本件公正証書遺言どおりの審判を受けることによって、本件遺産の物納を容易にするためであり、このことを平弁護士や被告雄彦に対し再三言っていた。遺産を共有分割する方法は、相続人全員がそれを望んでいるという特段の事情のない限りは取るべきではないとするのが確立した判例の立場であるが、原告らは、本件審判につき、「被告勝彦は現金の支払を受けるが、残余の当事者は相続分の割合の指定を受けるにとどまり、審判後に個々の不動産等の分配協議をなし得る」と考えていたのであるから、本件審判は裕治の相続人らの意思に基づかないものとして無効である。

6  よって、原告らは被告らに対し、本件審判が無効であることの確認を求める。

二  被告ら

原告ら主張の請求原因事実及び別紙事実はすべて認める。

第三  判断

一  証拠(甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件審判は確定していることが明らかであるから、本件審判が論理上当然に無効である場合を除き、家事審判法に定められた不服申立方法である即時抗告によってしかこれを争うことができないと解すべきである。

そこで、これを本件についてみるに、本件審判が論理上当然に無効であると判断するに足りる証拠はない。そうだとすれば、原告らの本件訴えは、無効確認を求める利益を欠く不適法なものとして、却下を免れない。

二  ところで、付言するに、当事者間に争いのない原告ら主張の請求原因事実及び別紙事実によれば、本件審判は、裕治の相続人らの真の意思に合致しておらず、有効な本件公正証書遺言を考慮せずにされているものとして、実体的には無効であるということが十分考えられる。

そうとすれば、しかるべき是正措置がとられるべきである。

三  以上によれば、原告らの本件訴えは、確認の利益がないからこれを却下すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官中田昭孝)

別紙<省略>

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